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Easy Running減酒とランニングで便通が劇的に改善した ― 腸が変われば全身が変わる

尋常性乾癬とマラソントレーニング」、そして「なぜマラソントレーニングで乾癬が改善するのか?」と、乾癬と運動の関係について2回にわたって書いてきた。

今回は少し違う角度から。マラソントレーニングの再開と減酒によって、便通が非常に良くなった話だ。一見すると乾癬とは無関係に思えるが、調べてみると、これらは「腸」という共通の地下水脈でつながっていた。

酒が腸にやっていたこと

まず、減酒の効果から。振り返れば、飲酒習慣があった頃は便通が安定しなかった。下痢気味というか軟便の日があったり、逆にすっきり出ない日があったり。当時からお酒の影響もあるのだろうと思っていたが、今にして思えばアルコールが腸に相当なダメージを与えていたのだろう。

アルコールは腸の粘膜上皮細胞間の密着結合(タイトジャンクション)を緩めてしまう。これが「リーキーガット(腸漏れ)」と呼ばれる状態で、腸壁の透過性が上がり、本来通過すべきでない細菌由来の毒素が血中に漏れ出す。前回の記事で書いた全身性の慢性炎症を引き起こす要因の一つが、実はここにある。

さらに、アルコールは腸内の善玉菌を減少させ、悪玉菌を増殖させる。特に酪酸を産生する菌群が打撃を受ける。酪酸は大腸の上皮細胞にとって最も重要なエネルギー源であり、これが減ると腸の機能そのものが低下する。

飲酒習慣のある人に便通の不安定さが多いのは、こうしたメカニズムが背景にある。肝臓での胆汁酸の代謝も乱れるため、大腸の蠕動運動のリズムまで狂ってしまう。

つまり、酒を控えるだけで腸への攻撃が止まる。それだけで便通が改善する素地が整うのだ。

走ることが腸を動かす

次にランニングの効果。これが想像以上に多層的だった。

最もわかりやすいのは物理的な刺激だ。ランニング中の上下動と体幹のひねりが、腸管を直接揺さぶる。大腸は腹腔内で比較的自由に動ける臓器なので、走る振動がダイレクトに蠕動運動を促進する。早朝ランの後にすっきりとした便通があるのは、この物理的刺激の効果が大きい。

もう一つ重要なのが自律神経への作用だ。走っている最中は交感神経が優位になるが、走り終えた後は副交感神経が優勢になるリバウンド効果が起こる。腸の蠕動運動を司っているのは副交感神経なので、運動後のリラックス状態で腸が活発に動き始める。

そして前回の記事でも触れた腸内細菌の話。定期的な有酸素運動は腸内細菌の多様性を高め、短鎖脂肪酸(酪酸、酢酸、プロピオン酸)を産生する善玉菌を増やす。短鎖脂肪酸は大腸上皮細胞のエネルギー源となり、腸管の水分吸収と蠕動運動を適正化する。便が硬すぎず柔らかすぎず、ちょうど良い状態に整うのは、この短鎖脂肪酸の働きが大きい。

減酒×ランニングは「足し算」ではなく「掛け算」

ここからが本題だ。減酒とランニングの効果は、単純な足し算ではなく掛け算的に効いている。

アルコールで荒らされた腸内環境が、減酒で「破壊が止まり」、ランニングで「再建が進む」。善玉菌が定着しやすい環境が整い、腸内細菌叢の多様性の回復が加速する。

腸管バリアの修復も二重に進む。減酒でタイトジャンクションの破壊が止まると同時に、ランニングで増えた酪酸が大腸上皮細胞を栄養して粘膜の再生を促す。腸壁が健全になれば水分と電解質の吸収が正常化し、便の形成が安定する。

自律神経のバランスも大きい。慢性的な飲酒は自律神経を乱し、特に副交感神経の機能を低下させる。減酒と規則的な運動の組み合わせは、自律神経を回復させる最も効果的な方法の一つだ。腸は「第二の脳」と呼ばれるほど神経系が発達しており、自律神経の安定は排便リズムの安定に直結する。

睡眠の質の向上も見逃せない。以前、禁酒で眠りの質が良くなったことを肩こり解消には禁酒がきく!かも?という記事に書いたことがあるが、睡眠中に腸管の修復と蠕動のリセットが行われている。アルコールで睡眠が浅くなるとこのプロセスが妨げられるが、減酒に加えて適度な運動疲労は深い睡眠を促し、翌朝の排便リズムを整えてくれる。

便通の改善と乾癬の改善は同じ現象の「別の顔」

ここで、前回・前々回の乾癬の話とつながってくる。

便通の改善は、腸内環境が健全化したことの最もわかりやすいサインだ。そして健全な腸内環境は「腸皮膚相関(gut-skin axis)」を通じて乾癬の改善にも寄与している。前回の記事で書いた通り、腸内の短鎖脂肪酸が免疫のブレーキ役である制御性T細胞を増やし、腸管バリアの修復がエンドトキシンの血中漏出を防ぎ、全身の炎症レベルが下がる。

つまり、便通の改善と乾癬の改善は、腸内環境の正常化という同じ現象の異なる表れなのだ。

逆に言えば、便通が不安定になったときは全身の炎症レベルも上がっている可能性がある。便の状態は、体の中で何が起きているかを映す鏡のようなものかもしれない。不摂生をするとてきめんに乾癬が悪化すると前々回書いたが、そのプロセスには腸内環境の悪化が介在しているのだろう。

体が求めていることはシンプルだった

3回にわたって書いてきた乾癬と運動と腸の話。つながりを整理すると、こうなる。

減酒で腸への攻撃が止まり、ランニングで腸が再建される。腸内細菌叢が回復し、短鎖脂肪酸が増え、腸管バリアが修復される。その結果、便通が安定し、同時に全身の炎症レベルが下がり、乾癬の症状も改善する。血液中の炎症性サイトカインが減り、内臓脂肪由来の慢性炎症も鎮まる。

すべてが一本の線でつながっている。そしてその起点にあるのは、走って、酒を控えて、よく眠るという、極めてシンプルな生活習慣の改善だ。

60歳を過ぎてからのマラソン再開は、タイムだけでなく、腸も皮膚も血管も含めた体全体を立て直す行為だったのだと、3回の記事を通じて改めて実感している。