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Easy Running夏に乾癬が改善し、冬に悪化するのはなぜか ― 汗が持つ「天然の免疫防御」という視点

乾癬とマラソントレーニングについて、これまで3回にわたって書いてきた。「走ることで症状が改善する理由」、「「血液の質」から考える科学的メカニズム」、そして「腸が変われば全身が変わる」。

今回は、以前から気になっていた季節変動の話だ。夏場に乾癬の炎症が改善し、冬場に悪化する。この傾向は長年の経験でよくわかっている。一般的には「紫外線の効果」や「冬の乾燥」で説明されることが多いが、それだけではない気がしていた。

夏は大量に汗をかく。冬はほとんどかかない。この差が関係しているのではないか。調べてみたところ、汗は想像以上に重要な免疫防御の役割を果たしていた。

通説 ― 紫外線と乾燥

まず、広く知られている説を整理しておく。

乾癬が夏に改善する理由として、医療機関のサイトでは紫外線の免疫抑制効果が挙げられている。実際、乾癬の治療には紫外線療法(ナローバンドUVB)が用いられており、紫外線が皮膚の過剰な免疫反応を抑えることは確かだ。

冬の悪化については、空気の乾燥による皮膚バリアの低下と、日照時間の減少が主な原因とされている。

これらは間違いではないだろう。しかし、もう一つの重要な要素が見落とされているように思う。

汗は「天然の抗菌薬」だった

2001年、Nature Immunologyという一流科学誌に興味深い研究が掲載された。汗腺から分泌される「デルムシジン(Dermcidin)」という抗菌ペプチドの発見だ。

デルムシジンはエクリン汗腺で恒常的に作られ、汗とともに皮膚表面に運ばれる。黄色ブドウ球菌や大腸菌など、幅広い病原微生物に対して抗菌活性を示す。しかも、汗のような塩分濃度が高く弱酸性の環境でも活性を維持するという、まさに汗の中で働くために設計されたような物質だ。

つまり、汗は単なる体温調節の副産物ではなく、皮膚を病原菌から守る「天然の抗菌薬」を全身に届けるデリバリーシステムでもあったのだ。

さらに最近の研究では、デルムシジンは単なる抗菌作用にとどまらず、マクロファージやモノサイト(単球)が産生する炎症性サイトカインにも影響を与えることがわかってきた。汗に含まれる成分が、皮膚の自然免疫応答そのものを調節している可能性がある。

乾癬の病変部では汗腺が壊れている

ここでさらに重要な事実がある。

British Journal of Dermatologyに掲載された研究によると、乾癬の病変部では二つの汗腺機能障害が起きている。一つは汗管の閉塞による発汗量の著しい低下。もう一つは汗管での水分やナトリウムの吸収異常だ。

つまり、乾癬の病変部では正常に汗をかくことができず、デルムシジンをはじめとする抗菌ペプチドや免疫調節物質が皮膚表面に十分に届かない状態になっている。これが悪循環を生む。汗腺が機能しない → 皮膚の免疫防御が弱まる → 乾癬が悪化する → さらに汗腺機能が障害される、という具合だ。

汗が皮膚の「常在菌バランス」を整える

前回の記事で腸内細菌叢(腸皮膚相関)の話を書いたが、皮膚にも独自の微生物生態系、いわゆる皮膚マイクロバイオームが存在する。

最近の研究で、皮膚の善玉常在菌(Staphylococcus epidermidisなど)は汗を好んで利用することがわかっている。善玉菌は汗の成分を栄養として増殖し、病原菌の増殖を抑える。一方、乾癬患者では皮膚マイクロバイオームのバランスが崩れていることが知られている。

ここから見えてくるのは、適切に汗をかくこと自体が皮膚マイクロバイオームの健全化に寄与しているという構図だ。善玉菌が優勢な環境は病原菌の増殖を抑え、皮膚の免疫バランスを正常に保つ方向に働く。

夏と冬の差を「汗」で読み解く

これまでの情報を組み合わせると、夏に乾癬が改善し冬に悪化するメカニズムが、より立体的に見えてくる。

夏は気温が高く、日常生活でも自然と汗をかく。ランニングをすればなおさらだ。汗とともにデルムシジンなどの抗菌ペプチドが皮膚表面に大量に供給され、皮膚マイクロバイオームが善玉菌優勢の状態に保たれる。紫外線による免疫抑制効果も加わり、乾癬の炎症は鎮まる方向に向かう。

冬は発汗量が大幅に減少する。抗菌ペプチドの供給が減り、皮膚マイクロバイオームのバランスが崩れやすくなる。空気の乾燥で皮膚バリアも弱まり、日照時間の減少で紫外線の恩恵も受けられない。炎症を抑える要素が軒並み減り、悪化させる要素ばかりが増える。

ランナーとして考えると、冬場でもトレーニングで汗をかくことは、紫外線や湿度の不足を部分的に補う効果があるのかもしれない。実際、真冬でも走り込んでいる期間は症状がそこまで悪化しない実感がある。但し、摂生にも努める必要もあります。

デルムシジンは「骨格筋のマイオカイン」でもある

調べていて最も興味を引かれたのがこの点だ。

デルムシジンは汗腺で作られるだけでなく、骨格筋のマイオカイン(筋肉から分泌される生理活性物質)でもあるという報告がある。2本目の記事で、運動時に骨格筋からIL-6が分泌されて抗炎症的に作用するという話を書いたが、デルムシジンもまた運動と結びついている可能性がある。

つまり、マラソントレーニングは二重の意味で汗の免疫防御を強化している。一つは走ることで大量に発汗し、汗腺由来のデルムシジンを皮膚表面に届けること。もう一つは、骨格筋でのデルムシジン産生を活性化すること。この二つの経路が同時に働いているとすれば、運動が乾癬に効く理由がまた一つ加わることになる。

全身と局所、二つの経路が重なっている

ここまで4回の記事で見てきたメカニズムを総合すると、マラソントレーニングが乾癬を改善する経路は大きく二つに分けられる。

一つは全身性の経路。内臓脂肪の減少による炎症性サイトカインの抑制、運動そのものの抗炎症作用、腸内環境の改善を通じた腸皮膚相関の正常化。これらは血液を介して全身に作用する。2本目と3本目の記事で書いた内容だ。

もう一つは局所的な経路。発汗によるデルムシジンなどの抗菌ペプチドの供給、皮膚マイクロバイオームの健全化、皮膚の微小循環の改善。これらは皮膚そのものに直接作用する。

マラソントレーニングは、この全身と局所の両方に同時に効く。だから効果が大きいのだろう。

冬こそ走る意味がある

この記事を書いていて、冬場のトレーニングの意味を改めて考えさせられた。

冬は紫外線も少なく、空気も乾燥し、日常生活では汗をかく機会がほとんどない。乾癬にとっては最も不利な季節だ。しかし、走れば汗をかく。真冬の早朝でも、10kmも走ればいくらか汗が出る。

この「冬でも汗をかく」という行為が、紫外線や湿度の不足を部分的にカバーし、汗に含まれる免疫防御物質を皮膚に届け続けることになる。夏に比べれば条件は厳しいが、走らない冬と走る冬では、明らかに皮膚の状態が違う。

昨秋からマラソンに向けたトレーニングを再開した。走って汗をかくことが皮膚の免疫防御を支え、前回書いた減酒による腸内環境の改善が全身の炎症を抑える。局所と全身、二つの経路が重なったとき、乾癬の改善は単なる偶然ではなくなる。サブ4という目標を追いかけながら、同時に皮膚も守られている。4回にわたって調べてきて、走ることと生活習慣の両輪で取り組む意味が、より確かなものになった。